離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「大丈夫、大丈夫。確実に東京に近づいてるからさ」
「ありがとう」

 尊とは不思議と同じフライトを担当することが多い。もしかしたら出来のいい彼とそうでない自分をペアで配置しているのだろうか……と疑ってしまうほどだ。

「お飲みものはいかがでしょうか?」

 ワゴンを押して進みながら私はビジネスマン風の中年男性に声をかける。

「――コーヒー」

 横柄であまり感じのよくない返事ではあるけれどこのくらいは慣れたものだ。完全無視をされてしまうこともあるし、この仕事はメンタルもかなり鍛えられる。
 私が彼に紙コップを手渡した直後に機体がまた大きく揺れて、お客さまが自身の座席にホットコーヒーをこぼしてしまった。

「熱っ!」

 手元や膝にも少しかかったのだろう。彼は不快げな声をあげる。

「大丈夫でしょうか?」

 私はすぐにタオルを取り出し、ひざまずいてこぼれたコーヒーを拭く。

「ったく。パイロットが下手くそなんじゃないのか。こんなに揺れる飛行機に乗ったのは初めてだぞ」
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