離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 桔平さんは私の複雑な感情には気がつきもせず話を進めた。

「先日、慶一郎さんが無事に社長に就任した。やっかみの声なんか彼なら実力で黙らせることができると思う。だから俺たちの結婚も役目を終えた形になる」
「――はい」

 お義父さんからの提案に〝離婚前提〟の条件はなかった。慶一郎おじさんが社長に就任したら別れようと言ったのは桔平さん本人だ。
 そして今日、約束どおり別れの日を迎えることとなった。
 桔平さんにあらためて説明されるまでもなく私も理解していたこと。だから、この先に続く彼の〝話〟の内容がなんなのかまったく予想がつかない。
『事情があって仕方なく結婚しただけだから、前妻ヅラはしないでくれよ』とか言われるのだろうか。

 桔平さんは視線をあげてまっすぐに私を見つめた。意志の強いキリリとした眼差し。機体に乗り込むときと同じ顔をしている。
 胸がトクントクンと騒ぎ出す。
 コックピットに向かう彼は私の憧れだった。仕事の合間に盗み見ることしかできなかったから――。

(最後に正面から見られてよかった。この瞬間を一生の宝物に――)

 この期に及んでも私はやっぱり彼が大好きなのだ。

「……したくないんだ」
「え?」

 うっかり自分の世界に浸っていたせいで桔平さんの言葉を聞き逃してしまった。焦ってオロオロする私に彼はもう一度言葉を重ねた。
< 9 / 183 >

この作品をシェア

pagetop