雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。


弟はまだ中学3年生。

家計を支えるためには私が働くしかないのだ。

この世でたった一人の肉親、少し間抜けで可愛い弟・志貴(しき)の顔を思い浮かべながら、再び求人誌へと視線を落としはじめたその時─、突如教室の空気が一変した。

昼食を食べながら雑談に花を咲かせていたクラスメイト達の声がピタリと止まったのだ。


異様な空気を察して思わず顔を上げる。

すると、ちょうど教室に足を踏み入れたばかりの男が目に入った。

皆が一斉に口をつぐんだ原因は“あれ”か。

『見るな、話すな、関わるな』

この学校の人間がそんな共通認識を持つ男、蓮見 怜央(はすみ れお)


不良と呼ばれる男子達も彼の前では、まるで借りてきた猫のようになってしまう。


なぜなら、彼は“格”が違うから。

名前は忘れたけど、なんとかっていう暴走族の総長らしい。

トレードマークの銀髪から覗く瞳は今日も鋭く冷ややかで、周りは必死に目を合わせないようにしている。

……蓮見怜央って確か隣のクラスだったよね?


うちのクラスに何しにきたんだろう。

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