偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
その間も、扉をドンドンと叩く音は続いていて、青山が必死な声で弁明する言葉が絶え間なく聞こえてくる。
「本当に誤解なんです。坊ちゃんのためを思って私の一存で進めたことです。坊ちゃんは一切関与しておりません。そのことで心を痛めておられたくらいでございます」
秀と出会ってから一年余り、親友として同じ時間を共有してきたのだ。
ーー今更あんたなんかに言われなくても、秀がそんなことしないってことくらいよく知ってる。
偽ったままでは結婚なんてできないといってプロポーズしてくれたほど誠実だってこともそうだし。
始めは偽りだったけれど、婚約者として寝食を共にしてきたなかで、医者として誇りを持っていることも知ったし、ストイックなほど仕事に打ち込む姿は格好よくもあった。
いつも優しく気遣ってくれてもいたし、頼もしいところだってある。
他人と関わるのが苦手だって言う割には、患者には信頼されているようだし、寂しがり屋の一面があって、恋にくっついてないと眠れない、なんて駄々っ子のようなことを言ってよく甘えてきたり。
長所だけでなく、短所も含めて、秀のことを好きになったのだ。
それなのに……。
ーー過去のことって、何? 長年想い続けてきたって、どういうことなの?
これまで積み重ねてきたものが足元からガラガラと音を立てて崩れてゆく。
秀に何か事情があったのだろうと思う。それでもちゃんと言ってほしかった。
秀に隠されていたことが、恋にはショックでしかなかった。
茫然としている恋の耳に、秀の声が流れ込んでくる。
「恋、なにもかも全部話すからここを開けてくれないか? その上で恋が嫌だって言うなら、結婚は取りやめてもいい。だから頼む。強引なことはしたくないんだ。いつまでも待ってるからこの通り頼む」
いつもは穏やかで優しい声音が白々しく思えてならない。