こじれた俺の愛し方

再会

 しかし他人と出会うのが好きではない俺に、偶然の出会いなんてものを感じられる日が来るとは思わなかった。

 あの時の彼女だ。
 あれから数日経ち、偶然入ったコンビニ。
 彼女はかなりぎこちない手付きで、せっせとレジ打ちをしている。この店で働き始めたばかりなんだろう。

 制服に名札が付いていて、『あおさわ』と書いてある。

「え、と…二百五十円のお釣りです…え…??」

 彼女が俺に気付いたらしい。

「…ああ」

 俺は気付いていても平然を装っている。
 彼女は何とか気を取り直し、急いで釣り銭を俺に手渡し頭を下げた。

 …そうか、ここにしばらくいるのか…

 それならしばらく彼女のことを見ていられる。俺の頭の中だけでいい、彼女を好きにできる。
 彼女はどんな声で、どんな顔で俺に捕らわれるのだろう?

 彼女は、平然と店を出ていく俺をチラチラと見て気にしながら、「ありがとうございました」と言った。


 どうせ逃げられるなら、見ているだけでいい。
 他の人間なんかどうでもいい。俺が気になった、あの彼女だけを見ていたい。

 彼女が忘れられない。
 あの時の真っ直ぐな瞳は、俺が見たどんな人間とも違う気がした。

 俺は、コンビニに用がある時には彼女のいる店に行くようになった。

 もともと家からそう遠くはない。
 俺はたまに彼女が見れさえすれば良い。
 仕事帰りにたまに寄り、彼女に会うのだけが楽しみだった。
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