冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~

 後頭部を掴むように支えてキスを続ける。唇を割って入り、歯列をなぞり口蓋を舐め上げる。

「ひぁ、……っ」

 由卯奈の上擦った声に腰が甘く疼く。
 ゆっくり離れると、お互いの唾液が糸となって陽射しに煌めいた。

「突然なにを……どうしちゃったんですか!」
「耳もとで叫ばないでくれ、俺だって混乱してるんだ」
「だから、なにに!」
「悪い」

 彼女の首筋にキスを落とす。なめらかな肌にはっきりと欲情を覚えた。

「な、ななななな直利さ……!」

 彼女の頬は、今や林檎のように真っ赤。
 俺は無言で彼女を離さず階段に戻り、そこで彼女を横抱きに抱え直す。

「お、降ろしてくださいっ」

 由卯奈が足をばたつかせる。水滴が宙に散った。

 先ほどの男ふたりが口笛を吹いてくるから、俺のだと言わんばかりに抱きしめて睥睨した。彼らの苦笑を背後にホテルに向かう。

 スイートルーム専用のエレベーターで部屋に戻り、クイーンサイズのベッドに由卯奈を横たえた。上質なスプリングがゆったりと沈む。

「寝心地は悪くなさそうだな」

 そう言う俺に、由卯奈が混乱の極みのような顔をして身体を起こした。

「あのっ、直利さん! 説明を求めます」
「説明? なんの」
「この状況の、です!」
「ああ」

 俺は笑って、海水で濡れた由卯奈の髪をかき上げる。

「君を抱きたい」

 由卯奈がぽかんと俺を見つめる。

「……は?」
「俺のものになれ、由卯奈」

 ベッドに乗り、笑みを消して彼女を押し倒し、顔を覗き込む。由卯奈のあどけなさを残す目、その縁が血を透かす朱に染まっていくのを見つめていた。とんでもなく崇高で美しいものを見ている気分になり、目を細める。

「ちょ、待っ、突然なにを」
「俺に抱かれたくない?」
「え?」

 由卯奈がきょとんと俺を見上げる。

「抱かれるつもりもなく結婚したのか?」
「え」
「嫌ならそう言え。今なら引いてやる」

 今日のところはな、と頭の中で言い添えた。もう逃がす気はない。

「っ、あ、そ、そんなことは……」

 彼女の返答に、知らず頬が緩んだ。

「ならいいだろ」

 濡れた彼女の肌に触れる。ひんやりと冷たい肌──舌を這わせると慌てたように彼女はもがく。

「な、直利さん! なにを」

 その反応に軽く眉を上げ、そうして気がついた。

「初めて、なのか?」
「────ッ!」

 首まで赤くし、狼狽する由卯奈の表情は、なによりも雄弁だった。

「じゃあ結婚式の日、別に直義となにがあったわけでもないんだな」
「え?」
「そうか」

 安堵している自分がいた。
 なんの話かもわかっていなさそうな彼女の手を持ち上げて、ペロリと舐めた。丁寧に──指先を、爪の縁を、水かきを、手のひらの窪みを、そして脈のある手首の内側にキスをした。強く。
 それは鬱血となって跡を残す。

「な、直利さん……?」

 身体の下で、由卯奈は目を潤ませこちらを見上げている。
 心臓がぐっと痛んだ。
 嗜虐心と庇護欲がないまぜになって、頭の芯を熱く痺れさせる。熱すぎて脳が溶けたかと思った。

 瞬きをする上向きの長いまつ毛に涙が乗った。なんて綺麗なんだろう。俺はそれを親指の腹で拭う。

「……ぁ」

 由卯奈がふ、と体温に惹かれるように俺の手に頬を寄せた。

 信じられないほど、愛おしかった。
 泣きそうな気分で、ひたすら混乱していて──ただ、彼女が欲しくて。

 目が合う。由卯奈が蕩けた瞳のままに微笑んだ。

 生まれて初めて、赦されたような気分になる。自分のすべてを肯定されたような──ああ。

「優しくする」

 そうとしか言えなかった。感情がなにひとつ、言葉にならない。由卯奈が小さくうなずいた。
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