そのままの君が好きだよ
「ちょっ……殿下、声が大きいで」

「聞かせてるんだよ。あとで直接話をさせてもらうつもりだし」


 そう言って殿下はニコリと微笑む。室内が途端にシンと静まり返った。先程までわたくし達の噂をしていた数名の顔が青ざめている。彼等はこちらを見ないようにしながら、逃げるように部屋を後にした。


「俺は性格が悪い自覚があるからね。嫌味も文句も、遠慮なく本人に言わせてもらう」

「そんなことして……敵が多くなりませんか? ご自分のことならいざ知らず――――わたくしはもう、あなたのお兄様の婚約者ではございませんのに」


 言いながら胸がツキツキ痛む。わたくしには本当にもう、なんの価値も無くなってしまった。そう思うと涙が溢れてくる。


「このぐらいで敵に回る様な奴は、最初からその程度の人間だったってことだよ。いや……仮にも王子である俺に楯突けるんだから、寧ろ気骨のある奴かもしれないな。
なんにせよ、俺は自分がやりたくてやってるんだ。ディアーナが気にすることは無い。第一、俺はディアーナが兄上の婚約者じゃなかったとしても、同じことをしているよ」


 殿下はそう言って穏やかに微笑む。性格が悪いなんて言ってる割に、お人好しだと思う。わたくしは苦笑を漏らしつつ、小さくため息を吐いた。


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