そのままの君が好きだよ
 けれど、ジャンルカ殿下の幻影はいつまでもわたくしを解放してくれない。


「今日からよろしくお願いいたします」


 それは、両親にジャンルカ殿下からの婚約破棄を打ち明けた翌日のこと。一人の令嬢が教壇の横でニコリと可憐に微笑んだ。新しく聖女となったロサリア様だ。


(なんで……なんでロサリア様が…………!)


 彼女は成績や家柄も相まって、わたくしやサムエレ殿下とは別のクラスに在籍していた。それなのに、今日から彼女はわたくし達のクラスメイトになるのだという。頭の中が真っ白になった。


「一体誰の差し金ですか?」


 ロサリア様の紹介が終わり、次の講義が行われる迄の合間の時間のこと。サムエレ殿下が教師にそう詰め寄った。彼の瞳は真剣で、いつものような笑顔はそこには存在しない。


「殿下が……ジャンルカ殿下が、その……ロサリア嬢は王太子妃になるのだから、より高度な教育が必要だと仰られて」


 教師は躊躇いつつも、そんなことを口にする。サムエレ殿下は眉間に皺を寄せ、教師の手をぐいっと引く。二人は一緒に、教室の外へと出ていった。


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