そのままの君が好きだよ
(ジャンルカ殿下はプライドが高い方だから)


 そんなことを考えつつ、わたくしは小さくため息を吐く。
 サムエレ殿下だって当然、気高いお方だ。けれど、ジャンルカ殿下のそれは、どこか余裕がなく、脆いように思う。誰かに何かを言われれば、すぐに折れるような危うさを秘めていた。


(なんて、わたくしが言えた話ではないわね)


 つい先日、ジャンルカ殿下から婚約を破棄されたことで、わたくしは自分というものを思い切り見失った。これまで必死で築いてきたものに価値が見いだせなくなって、辛くて堪らなかった。常に自己嫌悪に苛まれ、己に酷く幻滅して。


(ジャンルカ殿下も、そんな気持ちだったのかしら?)


 彼は、わたくしやサムエレ殿下と比べられることが辛いと言っていたから。もしかすると、今のわたくしならば、少しはジャンルカ殿下の気持ちに寄り添うことができるかもしれない。


「ディアーナ、悪い。少しだけ話が長くなりそうだから……」


 その時、サムエレ殿下が申し訳なさそうにそう囁いた。彼の掴まったお相手は、社交界では有名な、話し好きで高齢の伯爵だった。

 このまま同席しても構わないけれど、伯爵の方がサムエレ殿下と二人きりで話したそうな雰囲気を醸し出している。過去の夜会を思い返してみると、伯爵はいつもサムエレ殿下と二人きりで熱心に話をしていた。きっと、真剣に話を聞いてくれる殿下のことを快く思っているのだろう。そんな彼の気持ちに水を差すわけにはいかない。


「お気になさらず。わたくし、少しあちらに行ってますわね」

「ああ、また後で」


 そう言って殿下は、穏やかに微笑んだ。



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