ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
その言葉を完全に信じたわけではない。それでも、アルベールは、ミラベルへの恋心を、徹底的に隠すことを決めた。
「アルベール?」
「…………は」
最低限の言葉と、冷たい視線。
せめて嫌いになってくれればいいと、そうすればこうして気持ちを隠すのも少しは辛くないと思うのに、ミラベルはいつだって笑顔を向けてくる。
「限界だ……」
ミラベルから離れることを決めたあの日、事件は起こった。魔女の力に操られた侍女が、ミラベルの命を絶とうとしたのだ。
「助けてくださって、ありがとうございます」
「…………は」
……俺があなたを救おうとするなんて、当然では、ないですか。伝えたかった言葉を、辛うじて呑み込む。
アルベールは、理解した。恋をしてしまったが最後、魔女との約束の日まで、離れることでも、ミラベルは命を失うのだと。
結局、ミラベルを救った功により、アルベールは護衛騎士に任命された。
「眠っているなら、気づかれることもない……か」
もう一度、確実にこの気持ちを隠し通すと決めて。ミラベルが眠る、ほんの僅かなひととき、アルベールは愛する人に微笑みを向けた。