ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?

『は』としか言わない騎士と私



 リヒター子爵家の三男アルベールは、辺境伯令嬢である私の護衛騎士として、ごく最近配属された。
 それからというもの、私が朝起きてから眠るまで影のように付き従ってる。

 今日は、初夏の薔薇をイメージしたドレス。
 侍女たちに着替させてもらって部屋を出る。

 扉の前には、早朝にもかかわらず、すでに白い騎士服を完璧に着こなしたアルベールが、直立不動で控えていた。

「おはようございます。アルベール」
「は……」

 剣の腕は、すでにこの若さでマスター級。
 精鋭ぞろいの我がコースター辺境伯家で、めきめきと頭角を現したアルベール。

 騎士団長の覚えもめでたく、ご令嬢たちにも、ものすごく人気がある。

 それもそのはず、淡い金の髪は、太陽に透けて輝き、その瞳は光をうけた美しい海のよう。
 整った鼻筋と薄い唇、均整の取れた体格で長身。

 アルベールは、物語から出てきたような外見をしている。
 その上強いだなんて、完璧だ。完璧すぎる騎士だ。

 しかし、アルベールの特徴として、完璧な騎士であること以上に特筆すべきは、その氷点下の視線だ。
 それに加えて。会話らしい会話が成立しないことだろう。

 今も、その瞳は私から少しも逸らされることなく、ブリザード吹き荒れる氷点下の温度を保ったままだ。

 そんな彼を前にすれば、嫌われているのだと、思わないほうが難しい。

 けれど、その行動は、成立しない会話に矛盾していて、とてもかわいらしい。
 氷点下の視線と言動に時々、嫌われているのかな? という思いが拭えないながらも、毎日アルベールの行動を見守るのが、私の最近のひそかな楽しみだ。

「アルベール。そろそろ、去年植えてもらった薔薇が満開だわ。見に行きましょう」
「は……」

 無表情のまま、返事も「は……」あるいは「……は?」の一言しか発することのないアルベール。
 それでもその手は優雅に差し出されて、私をエスコートして庭へと連れ出す。
 ほほ笑むこともないけれど、そのエスコートはまさに完璧。完璧な護衛騎士なのだ、アルベールは。
< 4 / 45 >

この作品をシェア

pagetop