遠き記憶を染める色

㉓二人が辿り着いた場所、それは何処？

二人が辿り着いた場所、それは何処？



だが…、今ここでは、彼女を一人の女性として等身大で抱き、愛せなくてはならない…。
甲田サダトにとっては、”それ”ができなければ、自身への決着が成されなことになる。


言わば彼は今、必死に戦っていたのだ。
自分の奥深いところと…。


＊＊＊


他方、流子は、心の底から愛するサダトのカラダを欲する気持ちに火が付き、もう頭が真っ白になるくらい高揚していた。
彼が押しつけてくる下半身を押し返し、彼女も全身で相手のカラダをこれでもかというほどに撫で上げていた。


しかし厳密には、流子が彼と一体になりたいというのは、情念に駆られてであるのに対し、サダトのそれは、彼女の体に溶け込みたいという深なる渇望からであったのだ。
故に、二人が辿り着きたいと願う到達場所も、微妙に相違していたのかもしれない。


だが、それでも、すでに二人は心の深くまで溶け合ったはいた。
互いを理解し、激しく慈しみ合って…。
体も互いに受け入れ、異性として惹かれ合っていたし。


事実、今ベッドの上では、普通に男が愛する女への健全な行為に何ら映り違わなかった。


そう…、それは水の中でなくても普通に愛し合う行為に至っていた。
そう言えた。
少なくとも、流子は…。


＊＊＊


二人は裸になって、さらに相手の体を求めあっている。


サダトはやや乱暴に、だが言いようのないいたわり心が滲み出るような、どこかぎくしゃくさを醸しながらも一心に彼女とカラダを交わし合っていた。


”ああっ…”


一方、腰をくねらせ、全身でサダトを迎え入れていた流子は、とてもバージンの女子高生とは思えないほど淫靡な絵柄を露わにしている。
反面、死にもの狂いで普通に愛し合おうとする彼への健気な母性愛といったものも思いも滲み出ていた。


”サダトさん…、私のカラダで達して！ベッドの上でも私たち、ちゃんと愛し合えてるんだもん、大丈夫よ…”


その最中…、彼女は心の中でそう念じていたであろう…。


＊＊＊


二人は、重なりあった体勢のまま、荒い息を吐きながら激しく果てたあとも、強くきつく互いのカラダを抱きしめていた。


その二つのカラダに間には、彼から放出された愛の結晶が汗交じりでベトリと纏わりついていた。
流子は彼から伝わるその肌感が、何しろ愛おしくて仕方なかった。


”できた…、ちゃんとできたのよ、私たち…。ずっと、このままでいたい…”


彼女はある種の到達感に身も心も持っていかれ、なかば放心状態に至っていた。