ポンコツ彼女

キミを知った

「…要は飲食だったんですよ。職場も恋人も旧知の同性友人も、それに家族でさえ…。じっくり向きあって、共に開襟しあって…。ハッキリ言って、それなしでは自分の毎日が繋がらないんです。私に絆に準じた繋ぎ手はお茶して、飲んで食べての場が大前提だったの…。だから…」

S美はここで目をテーブルに落とした。
言葉のトーンも尻つぼみの体を成して…。

だが、オレの胸には響いたよ。
それもキーンとかグサッて鋭利なものではなく、ドスンって感じだったわ。

つまり…、皮膚感覚での伝わり感ではなく、土台を抜かれたような、驚愕、がくがくが心の芯にドカンとぶち抜いたがの如くであった。

***

そんな彼女に、オレはあえて意地悪してみたくなった。
何故か…。

であらばと、手元のアイスウーロンティーを一口飲干した後、こんな投げかけをした。

「でも今の世情は、その埋めどころをオンラインってことで納めちゃってますよ。小島さんは私なんかより、”そっち”の順応はいろんな面でネックなしでしょう。なんたって、自分なんかは根本、アナログ人間ですからねー。自分世代なら今のあなたの言でまあ、そうだよなとなるが、そっちは違うでしょ。カレシとだって、ラインの映像通話で愛を深めることだって…」

すると、彼女、こっちの言葉をさえぎるかのように、伏せた目線のまま、かなりトーンアップさせてこう返してきた。

「できませんでした!…私達…、全くでしたよ。親の親の世代で通用した遠距離恋愛なんて、私にとってはオーロラだったわ」

俯き中のまま、彼女はそう一気にまくしたてて、ふう…って感じでため息ついてたわ。

うーん…。
これにはさすが、オレ的にもサプライズだったもんで、思わずぽかんと口を開けてたわ。
当然、その絵柄はマスクで隠れてはいたが…。

***

こん時の沈黙は、およそ10秒近かったな。

通例って感覚なら、”あっ…、ゴメンナサイ!初体面の人に取り乱しちゃって…(ニコッ)”ってとこだろうが、この時の彼女はうつむいたままの「…」だった。

何か…、このやや意外なリアクション、不思議とキュンとなったよ。

純…、そう、この女性の場合、灯台下暗しはこのヒトが持ち得てやまなかった純朴の想いをある種、萌芽させたって感じられたんだ。
自然とね。

と言うことで、この女性よりは年長であり、人生の泣いた笑ったを若干余分に踏んできたオトコとして、ココは言葉を発しなければ…。

***

「…小島さん、実はオレも”オンライン逃れ”してみて感じたんだ。アレ、いつまでたても一次会だって…。何時間、通信料のメーター重ねても無礼講は訪れない。二次会は存在を排除されてるって…。結果、その時点でリアルに求める…、いや、欲するコトの穴は埋まらない。ふう…、ここにアナログ世代とデジタルなコミュニケーションが当たり前の下で育った世代間ギャップがあるかどうかは何ともだけど、少なくとも、密な距離感に勝る伝達は担えない気がするな」

「本橋さん…」

彼女はやっとカオを向けてくれたよ。
うーん、やっぱ、口元が見たい!

で…、思わず言っちゃった。

「S美さん!誤解を恐れず言っちゃいますよ。今のオレの言葉で、アナタはうつむかせてた顔を上げてくれた。できれば、今のアナタのマスク下も見たい。口元を合わせたあなたの”今の”素顔を…」

「…」

数秒後、S美はごく浅く頷くと、目元を微笑ませて、マスクを外してくれた…。






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