記憶を、なぞる。【完】
01
☽⋆゜
「いらっしゃいませ〜!!!」
友達のまや子に誘われて急遽、やってきた今日の飲み会のお店は、土曜日だからか入った瞬間から、かなり賑わっている声があちこちから聞こえた。
その声たちに萎縮しつつも、すぐに駆け寄ってきた店員さんに事前に聞いていた名前を伝えて席まで案内してもらう。
「この中ですね〜」
「ありがとうございます」
「いえいえ〜」
ちょっと大きめな個室の前で立ち止まって、わたしのほうを振り返った店員さんに小さく頭を下げると、店員さんは愛想よく頬を持ち上げて颯爽と戻って行った。
ブーツを脱ぎながら耳を澄ませていると、個室の中からは、複数のひとの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
その中には聞き慣れたまや子の笑い声も入っていて、「何人くらいいるんだろう…」と肝心なことは彼女から何も知らされていないので、ちょっと憂鬱な気持ちになった。
「ていうか、まや子もう打ち解けてるじゃん〜。絶対わたしいらなかったよね?」
と、今日この場にわたしを誘った友人を恨めしく思う。
ドアを開ける前から人見知りを発揮してしまって、着いたばかりなのにこのまま帰っちゃおうかな…なんて思考に至ってくるほど。
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