【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

狼騎士と婚約者



 ランティスが目覚めてから一日。
 メルシアのそばにいるランティスは、まだ狼になってしまう様子がない。

 ランティスは、食事をしてメルシアに髪を触れられ撫でられている間に、再び眠ってしまった。
 こんなに、人前で無防備に寝てしまうなんて、よほど、体力の低下が著しいのだろう。

 襲撃者と戦いながら、狼に姿が変わってしまうのを無理に抑えたランティスが、魔力の暴走で倒れてしまった約一週間前の出来事を、メルシアは思い出していた。

「…………ランティス様」

 ランティスから、漂ってくるのはいつもの針葉樹と控えめな花のような香り。それに加えて、甘くどこか石鹸のような香りが微かに鼻をくすぐる。

 シャボンの香り。それは、メルシアにとって、幼い頃から慣れ親しんだ自分自身の魔力の香りだ。

 ランティスの魔力の暴走は深刻で、上級魔道士アイリスの見立てでは、命の保証はできない状況だった。

『助ける方法はないんですか?!』
『あるにはあるけど、命をかけられる?』

 その言葉を聞いた瞬間、迷うそぶりも見せずにブンブンと頷いたメルシアを見つめ、アイリスは少しだけ嘆息した。
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