言えないまま・・・
夏紀さんはわずかに残っていたコーヒーを飲み干すと、

「それをあなたに伝えることが、今私がアキにできるたった一つのこと。格好良くいっちゃえば、愛した証とでもいうのかしら?」

と、テーブルの角を見つめながら寂しげに微笑んだ。

そして、私の目をまっすぐに見た。

「アキをよろしくね。今日はありがとう。」

夏紀さんは、ハンカチをバッグに直すと、さっと立ち上がりお勘定を済ませてカフェから出て行った。

呆然としている私を残して・・・。


今の話は何だったんだろう?

まるで夢の中に取り残されたような気分。

頭がもわもわして気持ち悪い。


アキを導いて・・・?

アキをよろしく?


私は、今の私には、理解できない。

もわもわした頭の奥に、優花の笑顔が一瞬よぎった。
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