生まれ変わりの条件
 絹子さんは縁側に置かれた肘掛けチェアにもたれて、庭を眺めていた。手首には杖に繋がるストラップを巻いている。

 降り注ぐ秋の陽光に眠気を誘われるのか、時々目蓋を閉じて微睡んでいる。

 シルクのように艶を帯びた白髪が美しい、そんな老女だ。

 僕は彼女を見つめてから、背にした庭を一望する。

 彼女が縁側から臨む庭は、広大にも拘らず、手入れが行き届いていた。

 敷き詰められた芝生に、剪定(せんてい)された植え込みや樹々、そして池には赤や白黒の錦鯉が雄大に尾びれを振って泳いでいる。

 美しい庭園だな、と思った。どこか懐かしく、郷愁の想いに駆られる。

 僕が降り立ったすぐそばを小学生ぐらいの少女が二人駆けていく。

 一見すると絹子さんの孫に思えるが、家族構成から考えると、彼女の弟とその嫁が祖父母に当たるらしい。

 絹子さんには結婚歴がなかった。彼女の時代には珍しく、生涯独身を貫いたのだと理解した。

 刻一刻と時は進み、三時四十分を過ぎた。秋のそよ風を受けながら、彼女は既に眠っている。

 その穏やかな寝顔に目を留めていると、彼女の隣りにキラキラと輝く光の粒が現れた。彼女の肉体から分離してできた霊体の姿だ。
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