生まれ変わりの条件

5.前世の記憶



 西園寺家は、明治、大正から続く大地主で、絹子さんは旧家の令嬢だった。

 子供の頃に親同士が決めた許嫁(いいなずけ)がいて、彼女は自由を制限された箱入り娘。さながら広い籠で飼われた鳥だ。

 僕はといえば、西園寺家に出入りするしがない庭師で、いつも縁側で本を読む彼女をこっそりと盗み見ていた。

 僕の視線に気付き、彼女は時折頬を赤らめて微笑む。僕たちはただ見つめ合うだけの関係だったが、内に秘めた想いは同じだった。

 互いに恋慕を募らせ、彼女の想いと通じ合えたのは、紅葉の葉が落ちる秋の日の事。

 僕は仕事の合間を縫って、絹子さんと逢瀬を重ねた。彼女から許嫁の存在を聞いてはいたが、恋い慕う気持ちは止められなかった。

 当然、危うい関係は長続きせず、彼女の許嫁に僕の存在を知られた。

「絹子ッ! よくも私を裏切ったな!?」

 庭に置いたままの刈り込み(ばさみ)を引っ掴み、許嫁の男は激怒した。

 咄嗟の事に体が動き、僕は彼女の前に立ちはだかった。

 ドス、と音を立て、僕の腹部を刃の長い鋏が貫いていた。

 喉奥から迫り上がる生温い液体を、咳と共に吐き出す。相手の男に血飛沫(ちしぶき)が飛び、絹子さんの悲鳴が空気を引き裂いた。
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