国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「ジェシカ様。私がクリス様と初めてお会いしたときのことなのですが」
 フローラが口を開くと、どうやらジェシカはその話に興味をもってくれたようだ。
「クリス様の良いところを見つけていくようにしたのです。その、サミュエルとすれ違ってしまったことによって得られたものですかね」
 そこでフローラは苦しそうに笑った。サミュエルと意見が食い違ってしまったのは、何も彼だけのせいではない。自分の気持ちを押し殺すように彼と付き合っていた自分も悪いのだ、と。それに気付くことができたのは、クリスのおかげ。
「そう……。フローラはクリスとうまくいっているのね」
 彼女の話を聞いていたジェシカはなんとなくそう思った。
「私が隣国に嫁ぐ必要があるのであれば、あなたも連れて行きたいと思っていた」
 え、という驚きの表情でフローラはジェシカを見つめた。そのジェシカはフローラの視線に応えることなく、じっとカップに入っているお茶の表面を見つめている。不規則に波紋ができているそれを。そして、そこにうつるジェシカの歪んだ顔を。
「だけど、あきらめるわ。あなたが、その、クリスと政略のためにいやいやお付き合いをしているのかと思っていたのだけれど。そうではないのよね」
 そこでジェシカはカップに手を伸ばした。ゆっくりと上品に、そして優雅に、それを一口飲む。
「やっぱり、あなたの淹れてくれたお茶は美味しいわ。優しい味がするもの」
「もったいないお言葉です」
 そこでフローラは頭を下げた。
 ジェシカに言われた一言。そして、クリスとのこと。どうしたら良いのか。どうすべきが正しいのか。
 出口のない迷路に迷い込んだ気分だった。
< 110 / 254 >

この作品をシェア

pagetop