国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「アリーバ山脈を越える」
「え」
 思わず漏らしたのはフローラだった。
「団長」
 動揺しているフローラにかわって、エセラが言葉の先を続ける。
「アリーバ山脈を迂回して隣国に行くのが通常ルートですよね。今回にかぎって、なぜアリーバ山脈を越える必要があるのでしょうか」
「単純に答えれば、移動時間の短縮のためだ。迂回ルートでは、隣国に行くまで十日程かかる。だが、山越えルートであれば三日で着く」
「その七日の差に、何かあるのでしょうか」
 そのエセラの問いにアダムは答えようとはしない。いや、答えることができないのか。
「でしたら、時間がかかっても迂回ルートで行くべきです」
「それはできない」
 ここでやっと、アダムが重い口を開いた。
 彼が言うには、山越えルートを提案してきたのは、とある大臣であるとのこと。移動時間短縮のために山越えルートで隣国に行った方がいい、とか言い出したらしい。
 もちろん、それにはいくつもの反対の声が挙がった。
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