国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
(どうしよう……)
 フローラの心の声は誰にも届かない。今、宰相は「二人で」と言った。恐ろしいことに。
 だがクリスはフローラのことなどを認識していないだろう。彼から見たら、見知らぬ女が隣にいる、というレベルだと思われる。
「あの……」
 クリスにやっと届くか届かないかの声でフローラは彼に声をかけた。顔をしっかりと彼の方に向けて。だからクリスも気付いてくれたのだと思う。隣に座っている見知らぬ女性が、彼に何かを言いたがっている、ということを。ゆっくりと顔を向け、その茶色の瞳がフローラの顔を捕らえた。
「私、護衛騎士隊に所属しております、フローラ・ヘルムと申します」
 クリスはそれに対して何も言わなかった。また、ゆっくりと視線を前に戻す。きっと彼はフローラに興味が無いのだろう。仕方ない。フローラもクリスに向けていた視線を、目の前の美味しそうな焼き菓子へと移した。
「私は……」
 声が聞こえたので、フローラは再びクリスに視線を向ける。
「魔導士団副団長を務めているクリス・ローダー」
「はい。存じ上げております。ローダー副団長は、有名ですから」
「有名。私が、ですか?」
 また、クリスがゆっくりと首を回してフローラの顔を見た。
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