国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 あの日、フローラがクリスに抱かれた日。
 クリスはフローラに「けして治癒魔法を使わないように」とだけ、釘を刺した。
 それはあの後、彼女の眠っていた魔力が案の定解放されたからだ。それはクリスが彼女の魔力を()たことで発覚した事実。そしてクリスが「治癒魔法を使えるようになりたい」と言っていたフローラに対して「絶対に使わないように」と口にしたのは、彼女の力が周囲に知られてしまうことを防ぐためだった。
 四属性の他に、光と闇という全属性の魔法を使える聖人(きよら)がここに存在するということを知られてはいけない、とクリスは言っていた。フローラが聖人であることを知られてしまったら、この国の政治に利用されるのが目に見えているからだ、と。
 フローラは、治癒魔法を使わないのであれば、どうやってジェシカを守ったらいいのか、ということをクリスに相談した。
『そんなこと、簡単ですよ。治癒魔法を使わなければならないような状況を作らなければいいのです。つまり、魔獣や野盗に襲われなければいいのです』
『そんなこと、できるのですか?』
『ええ、あなたならできます。魔獣はとても頭のいい獣です。だからこそ、相手が自分より強いと判断したら襲ってきません。魔獣より弱い人間だからこそ、狙われるのです』
『つまり、私たちが魔獣より強いことを証明しながら移動すればいい、と。そういうことですか?』
 フローラの言葉に、クリスは「そうです」と頷いた。
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