国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 だが、それがわかったところで、現状が変わるものでもない。とにかく今はここから逃げ出すことを考えなければ。彼は自分に何をしようとしているのか。もしかして、殺そうとしているのだろうか、という嫌な考えが脳裏をかすめる。
「なあ、フローラ。俺にはお前が必要なんだよ。やり直そう、俺たち。次はきっとうまくいく」
 言い、サミュエルは一歩近づいてくる。
 出口は彼の背にある。フローラはゆっくりと横に移動する。
「なあ、フローラ。俺から逃げるなよ」
 ゆっくりとサミュエルが近づいてきても、フローラには逃げ場所が無い。壁に沿って横に移動するしかできないのだが、それも限界だった。もう、目の前には彼の顔が迫っている。
「なあ、フローラ。一緒に死のう。あの世で一緒になろう」
 やっぱり、彼は自分の命を狙っていたのか。いや、彼を操っている誰かが、自分の命を狙っているのか。
 サミュエルの腕が伸びてきて、その手はフローラの細い首を捉えた。フローラは突然のことに驚くが、その手を掴んで必死に抵抗する。力では敵わない。だから、何か魔法をと考えているうちに、喉が痛くて苦しくて、そして頭がぼうっとしてきて。何も考えられなくなっていた。
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