国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 どうしてこのような状況で相手を思いやることができるのだろう。
 クリスの言葉に、フローラははっとした。
 魔導士団やその関係者からは、変り者、変人、空気の読めない男とまで言われているクリスであるが、その彼が、他人を思いやることができる優しい人であることをフローラは知っている。
「フローラ、彼を助けることができるのはあなたしかおりません。私の言う通りにやってみてください」
 フローラはゆっくりと頷いた。このような状況に陥っている理由などよくわからないけれど、サミュエルが何者かの闇魔法に操られているという状況だけは理解できた。
 クリスの言葉に耳を傾ける。使い方ひとつ間違えれば、あのように人から人を失うことができる闇魔法。
 フローラは、恐らくこの闇魔法を使うことはないだろうと思っていた。魔獣だって基本の四属性で対応するこができるのだ。
 フローラはクリスの言葉に耳を傾けながら、その魔力を微細に制御し始める。
 サミュエルが警戒しているのか、こちらとの距離を縮めようとしないことだけが救いだった。もしかしたら、クリスが何かしら足止めをしているのかもしれない。
 じわっとフローラの額に汗が浮かぶ。騎士として剣を振るうよりも、この魔力の制御というものは神経を使うのだ。
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