国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 父のような騎士になりたいと思っていたフローラだが、あの家を出て、こちらの騎士学校に入学してからは一度も戻っていない。学生のうちは年に一度くらいは手紙を書いていたが、父親から返事がくることはなかったし、ジェシカの護衛騎士になってからは、何を連絡したらいいかもわからず、手紙を書くことからも遠のいてしまった。
 もしかして、父親から嫌われているのかもしれない――。
 こちらに来てからそう思い始めてしまったから、なおさらである。
「ですが。結婚はあなたと私だけの問題ではないでしょう。まずはフローラのお父様にご挨拶をして、その後、私の父親にも会っていただけないでしょうか」
 クリスの口から父親という言葉が出てきたのが意外だった。
「どうかしましたか? 何か驚くようなことでも?」
 フローラは自分でも気づかぬうちに、驚いていたらしい。少し目を大きく見開いてしまったとか、ちょっとだけ口をぽかんと開けてしまったとか。恐らくクリスだから、フローラの表情の違いに気づいたのだろう。
「いえ。その……。クリスにもお父さまがいらしたんだな、と思いまして」
「ええ。一応私も人の子ですから」
 言うと、クリスはそっとフローラの肩を抱き寄せる。
「では、私の子が本当に人の子になるか、確認しましょうか?」
 クリスは軽くフローラに口づけた。
「まだ話の途中ですからね。今は、我慢します」
 クリスは優しく笑っていた。
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