国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
32.未来のために
 その後、クリスの父親の元へと向かう。彼の父親はフローラを一目見て、あの聖人(きよら)の娘であることに気付いたようだ。だが、それを口にするようなことはしなかった。
「結婚したいと思えるような人物に出会えてよかったな」とたった一言。
 そこで数日過ごし、その彼の領地で結婚式を挙げた。もちろん、そこにはフローラの父親の姿もあり、二十年ぶりに再会した双方の父親が何を語ったのか、クリスもフローラも知らないところだ。


 結婚式を挙げた日の夜といったら、やることは一つしかないと思って、いろいろと楽しみにしていたのはもちろんクリスの方である。
 連日、その結婚式の準備等に追われていたため、寝台に潜るとフローラは意識を失ったかのようにすぐに眠りについていた。そんな彼女に少しいたずらをしかけてみる彼ではあったが、さすがに完全に寝入ってしまっているフローラに手を出すのも気が引けた。こちらに来てからというもの、彼女を抱くことを我慢していたクリスなのだ。
「フローラ」
 ぎしっと軋ませてクリスは寝台に膝をついた。フローラはそこに少し呆けたようにして座っていた。恐らく、疲れたのだろう。
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