国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「フローラ、あなたなら大丈夫ですよ」
「いえ、その、そういう意味ではなくて。その、クリス様は初めてでいらしたのですか?」
「あぁ、やはり気になりますか? まあ、あなたが初めての相手ではないのですが」
 クリスが若かりし頃、まだ辛うじて十代の頃。魔導士団へ入団したてて、その魔力量も把握できずに魔獣討伐へと赴いたときのこと。調子にのって攻撃魔法でばんばんと魔獣を倒していたら、その魔力が暴走した。
 魔力が他の魔導士よりも十倍くらい多いクリス。その魔力が逆にクリス自身に襲い掛かり、周囲に魔力を漏らし、さらにその周囲から魔力を取り込むという、制御不能の状態に陥った。これを鎮めるためには、魔力と似て非なる精を放つのが一番手っ取り早く、この状況を見て察したノルトが、魔導士を受け入れることができる娼館へと彼を連れて行った、らしい。らしい、というのは、この辺の記憶がクリスにはぼんやりとしか残っていないからだ。
 その後、彼に抱かれた娼婦は、一か月以上も仕事ができず、ノルトは一か月以上の娼婦代を支払い、それをこっそりとクリスの給料から差っ引いていた、というのはそれから三年後に聞かされた事実。
 だからクリスは滅多なことがないと魔獣討伐には同行しない。同行したとしても力を抑えて使う。だから研究職を専門としているのだ。
 クリスの話を黙って聞いていたフローラは、また、ちゃぽんと唇の下まで湯船につかった。
「幻滅しましたか?」
「いえ。私がクリス様に幻滅するようなことはございません」
「そうですか……。私を受け入れてくれて、ありがとうございます」
 呟くと、クリスは彼女の首元に顔を埋めた。
 だからフローラは肝心のそれ以外の障害の話を聞くことをすっかりと忘れてしまった。
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