聖なる祈り

演じきる


「っよし! カーット!」

 監督の指示で、僕は現実へと連れ戻された。

「いやぁ、良かったよ、叶多! ハルトの絶望感がビシビシと伝わってきて……迫力があった!」

「……あ。ありがとう、ございます」

 嬉しそうに笑う監督に背中をポンポンとされ、成功の二文字をじわじわと噛み締める。

「よくやったな、叶多っ」

 マネージャーからハンカチを渡され、自らの涙でびしょ濡れになっていた頬を拭く。

 自分でも不思議な感覚だった。

 あれほど分からなかったハルトの心情が、手に取るように理解できた。そしてそれが分かったのは、実は星伽のお陰だったりする。

 演じるのが難しいと愚痴をこぼした僕に、彼女は言った。 

『砂漠に放置された一輪の花……、かもしれない』

『え……?』

『大切な人を亡くしてまで生きなければいけないって……。きっと水を貰えない花みたいなものなんだと……私は思うな』

 未来を見出せない地獄を、彼女はそう喩えて言った。

 カラカラになって朽ち果てても、絶望は消えない。無気力になってただ心臓が止まるまで生かされる。

 想像でしかなかったが、不思議とその感覚が理解できて、演じる事に成功したのだ。そうとしか思えなかった。
< 14 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop