硝煙の恋/悶ずる少年の死夏ー歪んだ憧憬模様ー

トラップ

トラップ



「たまり場って、どんなとこですかね?」

「カフェバーよ」

「僕は未成年なんで、まずいですよ」

「アルコール以外の飲んでればいいのよ。まあ、私たちは飲むけど、ハハハ…」

二人は強引だった。

約20分して、東京北部の新興住宅街の一角にある目的の店に着いた。二人は静人の両脇を固めて、店内になだれ込むように入っていった。

「いらっしゃい…!」

30代くらいのバーテンダーからは思いのほか低い声がかかった。

「マスター、こんばんわ~。奥の席いい?」

「どうぞ…」

「じゃあ、あっちよ」

今度は両腕を二人に引っ張られるように奥の席へ誘導された静人は、レザー製のシート席に腰を下ろすした。すると間をおかず、サキとタカコはその両側から体をピタッとつけ、ほとんどサンドイッチ状態になっていた。

”なんか、やけに積極的だけど、この二人…”

早くも静人は相手のペースにのっかり、完全にたじろいでいた。

...


静人はやや不安になってきた。考えてみれば、ちょっと不自然な接触ではあった…。もし、なにがしかの悪意があるとすれば、それって…。静人は一気にネガティブ思考にシフトしていた。

「さあ、景気付けにソルティードッグでも飲みなさいよ、静人君」

「僕、未成年なんで、アルコールはだめですって。さっきも言いましたよね?」

「いいから、いいから。ああ、お金は心配しないで。とにかく今日はさ、ガンガン飲みましょう」

「…あなたたち、何が目的なんですか?やっぱり不自然ですよ、これって」

ここで意を決し、静人はまず気になっていることを二人にぶつけた。すると…。

...

「…わかった。話すわ。私たち、武次郎さんから頼まれたのよ。あなたが女にフラれたから、元気つけてやってって」

「…」

正直、そんなところかと思っていた。さすがにイノシシとチビの両先輩じゃあ、こういった手回しは到底無理だが、武次郎あたりなら納得だった。

さすがに、さっきまでのときめきはどっと萎えたが、早々にカラクリを聞かされたせいか、この状況を静人はすんなり受け入れることができた。正確には割り切れたといことなのだろう。

「ねえ、こういう時は強いお酒でもかっくらって発散するのが一番よ。それとも、お相手が私たちじゃあ、お気に召さない?」

「いえ。二人とも素敵な女性だと思います。なら、はめ外してもいいんですね?」

「ええ、モチよ!じゃあ、乾杯しましょ!」

両手に花の静人は生まれて初めての酒を飲んだ。すすめられるままにカクテルを次々と…。そして、静人の記憶がなくなるまでさほど時間は要さなかった。

...


”麻衣…、麻衣…”

”麻衣を忘れるために飲んでるのに、頭の中は麻衣のことばっかだ…”

「静人…、着いたわよ!」

”ここはどこだ…、家か…?”

”ブーン…”

サキだかタカコだかが静人を車から降ろすと、赤のラングレーはすぐに走り去った。完全に酔いが回ってフラフラの静人は、とにかく周囲を見回してみた。さすがに自宅の前ではないことははっきりわかった。そして目の前には、ブルーの看板にうすぼんやりとした明かりが灯されていた…。

”どっかの店の看板か…、ええと、ヒールズ…?”

一瞬、酔いがさめたかと思うほど衝撃を受けた。なんと、静人は麻衣の店の前に立っていたのだ。

”オレ、何でここにいるんだよ⁉”

静人はしばらくブルーの看板を見上げていた。

...

今の気分と酔った勢い…、なぜだかは知れないが、この場所に来ているのなら、もうその先の行動は知れていた。

静人は入り口の木製ドアを勢いよく開けた。

店内には二人連れの客、それにカウンターに中年のガタイがしっかりした男が一人、背中を向けて座っていた。そして二人連れに挟まれた麻衣…、厳密にはここでの彼女は”豹子”であったが、そんな夜の彼女が静人の視界に侵入した…。

静人の視線はすぐに麻衣ひとりに向けられ、「麻衣ちゃんー‼」と叫んで、麻衣と二人連れの客の元にかけて行った。そして、ソファーに掛けていた麻衣のもとに腰を崩し、彼女の膝に顔を埋もれさせた。

店内は一瞬シーンと静まり返り、店内のBGMだけが店内に響いている。二人の客は顔を見合わせ、麻衣にの様子を伺っていた。それは恐々とした様子を持って…。

麻衣は表情を崩さず、そのまま動かずに少しの間黙っていた。静人はすでに麻衣の膝の上で泣いている。するとカウンターの男が立ち上がり、奥の4人に向かって歩き出そうとした瞬間、麻衣が口を開いた。

「アハハハ…。この友達、泥酔じゃん。ああ、ごめんなさーい!ちょっと外の空気に当たってあやしてくるから、しばらく失礼しますね」

麻衣は泣き崩れている静人を起き上がられせ、その体を肩で抱きかかえながら店の外に向かった。

「ああ、能勢さん、大丈夫なんで…」

今夜の”当番”であった能勢は麻衣のその言葉に小さく頷き、麻衣と静人が店を出た後、ドアを閉めてからカウンターに戻った。

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