硝煙の恋/悶ずる少年の死夏ー歪んだ憧憬模様ー

伏線

伏線


今、目の前にいるイノシシとチビの二人は、これまた同じ高校を中退した静人の1級先輩だった。ただし、嫌われ者であってもいじめられっ子ではなかった。

イノシシは静人の境遇を伝え聞いて接触すると、最も陰険にいじめを続けていた1年でクラスが一緒だった男子二人を呼びつけ、静人への行為を彼の前で認めさせ、”制裁”を加えてくれた。

2人の男子生徒は泣きべそをかいて静人へのいじめを謝罪したのだ。静人は嬉しかった。そして中退仲間の二人の先輩に感謝し、それから3人は毎日、行動を共にしてゆく…。

確かにその二人は素行が悪く、いわゆる不良であったが、同じ境遇故か一緒にいると何とも心が安らぎ、とにかく楽しかった。とは言え、毎日何をするということもなく、ただ一緒にいて顔を突き合わせ、無駄話に花を咲かせる程度ではあった。

”世間”が夏休みに入ると、自分たちの”行動時間”である真昼間でも、同年代の中高生が周りに溢れてくる。そうなると3人は心持ち、気分がハイになっていった。

やはり、みんなが学校に行ってる時間帯は、自分たちだけがのけ者にされているという自虐感がどうしても拭えない。それが、いたるところに普段着でワイワイガヤガヤの”同年代”が視界に入ってくると、疎外感から解放された気分に浸れるのだ。所詮は錯覚、自己満足とはわかっていても…。

...

だから、学校をやめても3人は夏休みが好きだった。まあ、冬休みも春休みも同じなのだが…。

そんな中、特別な”同年代”が3人の視界に入ってくる。それは夏休み前半の7月中旬のことだった。そして、すぐに”彼女”は視界の常連さんとなり、お気に入りとなる。そのメインポイントだったのが、通り沿いにある行きつけの”例の”ファミレスだったのだ。

その彼女はいつも一人だった。だいたいは遅い午前中にテーブルに付き、ランチを注文していた。そして、3人組はその時間帯に合わせて、遠からず近からずの席から彼女をウォッチする…。

8月に入るとそれはもう日課のようになり、時折、彼女が現れない日などは太陽が燦々と照りつける晴天でも、彼らの心の中はどんよりとしたぶ厚い雲が覆っていたものだ。

夏休みもあとわずかとなった8月下旬…、ついに彼女とのファーストコンタクトが叶った。そして夏休み最終日の8月31日昼、あの警察沙汰となる…。

...


「静人、この武次郎さんはさ、”あの女”のバックと仲間から俺たちを守ってくれるそうだ」

静人には正確な意味までは分からなかったが、何となくやんわりとしたイメージは瞬間で描けていた。

”あの女”…、もうこの時点では本郷麻衣だということは分かっていたし、彼女があの日、警察に拘束された直後、体調の急変によって病院に移送されたことも…。さらに病院での検査で薬物反応が出たとも…。

そのすべてが静人にとっては青天の霹靂、寝耳に水の衝撃だった。オレと同じ17歳の元高校生であるあの小柄な少女がなぜ…。

ファミレスで、この大柄のイノシシ先輩と乱闘劇を起こしたことだけでもその場に立ちすくみ呆然となっていたのに、その後の彼女をめぐっては、これでもかというくらい驚愕の新情報がたて続けに飛びこんできたのだ。

静人は驚きの連続で、頭の中の整理が追い付かないというのが、正直なところだった。その彼女…、実はつい先日他界した相和会の故相馬会長の血縁らしい…、その相和会から援助を受け、都県境最大の女性組織である南玉連合の元リーダーとしてこの一帯を闊歩していたようだと…。

この新情報は一昨日耳にしたものだが、それとイノシシが今言ったことが、静人の中では結びついていたのだ。

...

「…その麻衣とかってズベ、あのファミレスじゃあ、俺たちを嵌めたんだ!これは間違いない。周到に筋書きができてたワナだったんだよ。ねえ、武次郎さん…」

「ああ、そういうことだ。お前らはあの小娘の自作自演劇に利用されたんだ。ノーギャラで無理やり準主役を演じさせられた。ふふ…、冴えねえ話だな。だがいいか、あの本郷麻衣はハナタレ娘でも、相和会が後ろにどっかとついてるんだ。今度の薬物発覚は、”これ”をきっかけに拡大する。この後逮捕者が何人も出て、相馬豹一亡き後の後継争いも再燃だ」

静人はもう頭がパニックでめまいがしそうだった。”一体、どこまで行くんだ…、あの子はどこまで…”、それでもやはり混乱している頭も麻衣で埋め尽くされている…。これだけは100%間違いない…、そう静人は感じていた。

...

「そんで静人、この後の展開次第じゃ、俺たちに相和会が接触してくることもあるぞ。麻衣とのトラブルで余計なことをしゃべられちゃまずいってことでな…」

「静人、まずこれは口止めだが、逆に俺たちから聞き出したいって立場の接触だって考えらるよ。例えば、相和会と敵対する組織とか…」

「…」

静人は思わず絶句した。





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