月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

決闘

「──っ、でしたら!! 私はそこのトールという男に決闘を申し込みます!!」

「っ?! な、何をっ?!」

 アレクシスの決闘宣言にティナは驚愕する。
 それもそのはず、聖騎士の中でも屈指の有望株であるアレクシスが、最近まで学生だったトールに決闘を申し込んだからだ。

「私より弱い男にクリスティナ様を任せることなど出来ません! それにクロンクヴィストへ行くのなら、素性がはっきりしない奴ではなく、この私がお供します!! そしてその後は共に聖国へ参りましょう!! 聖下もクリスティナ様をお待ちしているのですよ!!」

 どうしてもティナとの関わりを失いたくないアレクシスが食い下がる。いくら卑怯と言われようと、アレクシスはティナを諦めきれないのだ。

「貴方はラーシャルード神に身を捧げた聖騎士でしょう?! それなのに──」

 アレクシスを咎めようとしたティナを、手で合図したトールが止めた。

「その決闘お受けします」

「トールっ?!」

 決闘させまいとアレクシスに説得を試みていたティナは、肝心のトールが承諾したことに抗議の声を上げる。
 先程使ってしまった獣魔契約の魔力がまだ回復していないからだ。

「ティナごめん。決闘を受けないと、この人諦め無さそうだしさ」

「だからって……! いくらトールが強くても実戦の経験なんてほとんど無いよね?! アレクシスは魔物の討伐で功績を讃えられる程戦い慣れてるよ!」

 学院の授業の一環で、戦闘経験を積むための模擬戦は行っているが、決闘のような命を賭けた戦いを、トールは経験していない筈なのだ。
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