月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

到着

 アウルムに起こされたティナとトールがテントから出ると、まだ時間は早朝で、森の中に薄っすらと霧が立ち込めていた。

 木々の間から朝日が差し込み、光の筋となって森の中を照らしている。

 清々しい朝の空気の中で、ティナは思いっきり伸びをすると、深呼吸をして気を引き締めた。

(よーしっ! 今日も一日頑張るぞー!)

 ティナは新鮮な空気を吸って煩悩を振り払う努力をする。そうしないと何時まで経ってもトールのことで頭がいっぱいになってしまうからだ。

 夜が明けたこともあり、もう大丈夫だろうと判断したティナは結界を解除する。
 見た目は何も変わらないが、周りの空気が静謐な神殿から静寂に包まれた森の中へと戻っていく。

「モルガンさんたちはまだ起きていないみたいだね。結界の効力でまだ眠っているのかな」

 今日もトールは通常運転で、さっきまでティナを抱きしめていたことを、全く意識していないようだった。

(……まあ、トールは眠っていたし? 私を抱きまくらにしたことなんて、覚えていないかもしれないけれど……っ!)

 トールに朝の記憶がないのなら仕方がないと思いつつも、自分だけ意識していることに、ティナは内心不満に思う。
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