月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

襲撃

 クロンクヴィストの国境の街、へールスを出発したティナたちは、王都ブライトクロイツへと向かっていた。

 ブライトクロイツはへールスから馬車で二週間ほどの距離にあり、かなり発展している都市だという。

 ティナは馬車に揺られながら、流れていく風景を眺めていた。
 両親と訪れたというクロンクヴィストの景色を見れば、失ってしまった記憶が戻るかもしれない、と思ったからだ。

(うーん、やっぱり思い出せないなぁ……)

 しかしクロンクヴィストに入国してからしばらくは観光名所と言われる所や、宿泊する街を散策してみても、見覚えがある場所は一つも見当たらなかった。
 本当に自分はこの国に来たことがあるのか、疑問に思う程だ。

(……あれ?)

 一生懸命記憶を辿っていたティナはふと気がついた。
 両親と他の国を巡った記憶は残っているが、クロンクヴィストで過ごした記憶だけが思い出せないのだ。

 ティナの両親はクロンクヴィストからセーデルルンドへ戻る途中、盗賊団に襲われている商団を助けようとして、命を落としたと聞かされている。ちなみに未だ犯人たちは見つかっていない。
 
< 208 / 616 >

この作品をシェア

pagetop