月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

素顔

 襲ってきた盗賊達を返り討ちにし、逃げないように結界で閉じ込めることで、森の中はようやく静かになった。
 先程まで激しい戦いが行われていたのが嘘のように、今は静寂に包まれている。

 自分が作った結界の中で気絶している盗賊たちを見て、ティナはやっと身体の力を抜き、一息つくことができた。
 いくら魔物と戦い慣れしているとはいえ、人との戦闘は訓練以外でするのは初めてだったし、多勢に無勢だった。
 臆していると気取られないように、平気そうな表情を保っていたものの、心の中はばくばくと緊張しっぱなしだったのだ。

 襲撃の際、先に逃げて貰ったモルガン一家も、今頃ティナたちをひどく心配しているだろう。
 できるだけ早く彼らの元へ向かい、安心させたいところではあるが、盗賊たちをこのまま放って置く訳にはいかない。
 トールと相談し、彼らの処遇をどうするか決めなければならないのだが……。

(この人たちが盗賊の真似事なんてしていたのは、やっぱり……)

 盗賊たちはまるで訓練された騎士たちのように綺麗な戦い方だったな、とティナは分析する。
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