月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
再出発
イロナと別れたティナは、アウルムと歩きながらどこへ向かうか考える。
「うーん、栽培場所の候補を上げるなら……やっぱり山の中だよね」
「わふぅ!」
人の言葉がわかるらしいアウルムが、ティナの呟きに返事する。
尻尾を振りながらちょこちょこと歩くアウルムの姿はとても愛らしく、周りの通行人も微笑ましそうにアウルムを見ている。
「ふふっ、じゃあ、ちょっと遠いけどフラウエンロープに行こうか。すっごく大きな山があるんだって」
「わうっ? わふわふっ!!」
アウルムが嬉しそうに返事をする。ずっと森にいたであろうアウルムは、王都ブライトクロイツのような人が多い所より、自然が溢れる場所の方が過ごしやすいだろう。
「よし決まり! じゃあ、今日はもう少し歩いて、良さそうな宿があったら泊まろうね」
「わふわふ!!」
今までずっと、ティナのそばには誰かがいてくれた。だけど今日からティナは一人で冒険することになる。
きっと今は平気でも、ふとした時にひどく一人を寂しく思うかもしれない。
(アウルムがいてくれて本当に良かったな……)