月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 アウルムの金色の瞳がトールと重なって、ティナの心を締め付ける。

「心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ」

 ティナがアウルムをそっと抱き上げると、慰めようとしてくれているのだろう、アウルムがティナの頬をペロペロと舐めてくれた。

「ふふっ……有難うね」

 優しいアウルムの頭を撫でながら、ティナはトールのことを想う。
 今は無性にトールに会いたくて仕方がない。

 自分からトールを拒絶しておいて、何を言っているのだと自分でも思う。相変わらず自分勝手な性格に嫌気がさす。

(トールは私に失望しただろうなぁ……)

 自分は何もかも忘れ、トールに全部押し付けたくせに、それでも守ると言ってくれた恩人に対して、何てことをしてしまったのか。

 思い出す前にも後悔していたけれど、真実を知ったティナはさらに深く後悔する。

(……………………あー! もう寝よう寝よう! 力を使って疲れたし!)

 実際、脳に負担が掛かったのか、ひどい頭痛に襲われていたティナは現実逃避することにした。今必死に考えても答えは見つからないと思ったのだ。
< 321 / 616 >

この作品をシェア

pagetop