月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
森の真実
ハーフエルフのノアは300歳以上で、30年以上前から森の中で暮らしているという。
「あの、ノアさんは、どうしてここで暮らそうと思われたんですか?」
わざわざ空間拡張の魔法を施した小屋まで用意して、30年もの間一人で暮らすその理由をティナは知りたくなった。
だから思わず疑問が口に出てしまったのだが……。
「……いえ! やっぱり答えなくていいです! 変なこと聞いてすみません!」
人にはそれぞれ事情があるとわかっているのに、つい質問してしまったティナは後悔する。
自分にも事情があるのに、どうして人の心の中を暴こうとしてしまったのか……もしかするとこの質問が、ノアの傷を抉ってしまったかもしれないのだ。
「ん? ここが気に入ったからじゃよ?」
「へ?」
ノアのあっけらかんとした答えにティナはぽかん、とする。あれこれ考えていたのはティナの杞憂だったようだ。
「こう見えて昔はワシもちょっとは名の知れた魔法使いだったのじゃ。研究に明け暮れておったが、ふと面倒くさくなっての。静かなところでスローライフを楽しもうと思いついたんじゃ」