月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

遺恨


 クロンクヴィスト王国には公爵の位を持つ三つの家門があった。

 そのうちの一つであるアッヘンバッハ公爵家は今代の皇后を排出し、その勢力は飛ぶ鳥も落とす勢いで、王室にも匹敵する程であった。

 そして皇后である娘は王子を出産し、行く末はその王子が王太子となるだろう、と国中の誰もが思っていた──トールヴァルドが生まれるまでは。

 このクロンクヴィスト王国に於いて<金眼>を持つ者は、初代国王の正統なる後継者として尊ばれる。
 そんな王子の誕生に国は湧き、たとえ第二王子だとしても次期国王にするべき、との意見があちらこちらから聞こえてくるほどであった。

 実質的にアッヘンバッハ家がクロンクヴィスト王国を支配出来るまであと少し、というところまで来たというのに、トールヴァルド一人のために今までの苦労が全て無駄になってしまう。
 <金眼>を持つトールヴァルドの存在は、アッヘンバッハ公爵の野望を妨げる最大の障害となったのだ。

 そんな目障りなトールヴァルドをこの世から抹殺するために、嫉妬深い娘である正妃と共謀し、公爵はありとあらゆる手を用いたものの、その尽くを失敗してしまう。

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