月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
精霊
ノアの小屋から出発したティナは、アウルムの背に乗って森の中を進んでいた。
精霊王がいるらしい湖はまだまだ遠い。
実際、ノアの小屋があった場所も森の入口辺りだというから驚きだ。
それでも、ティナはアウルムのおかげで随分速く森の中を進めている。
「アウルム、疲れたらすぐ言ってね。無理はしないでね」
『大丈夫ー。何だか全然疲れないのねー』
森の奥に進むにつれ、アウルムはだんだん元気になっていった。
まるで森から不思議な力を貰っているかのようだ。
そして、その不思議な力は森の植物にも影響を及ぼしているらしく、森の入口にある薬草と同じ品種でも、奥に行けば行くほどその効果は段違いに高い。
もしかすると、精霊王が何かしらの影響を及ぼしているのではないか、とティナは考察する。
ちなみにティナはこの森の中で凶暴な魔物を見たことがない。
普通の森なら人間に襲いかかってくる魔物があちこちにいるのに、この森に足を踏み込んだ時から、危険な気配を感じたことがないのだ。
「うーん、不思議な森だなぁ……」
ティナは不思議に思いながらも、深く考えないことにした。