月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
疑惑
「あの、ラーシャルード神がルーアシェイア様──精霊王様をお生みになられたお話は本当なんですか……?」
精霊たちが嘘をついていないことはティナにもわかっている。そもそも精霊がそんな嘘をつく理由がない。
しかしティナが敢えて質問したのは、明確な答えを聞きたかったからだ。
《あら。あなた知らなかったの?》
《嘘じゃないわ。誰でも知っていることじゃないの?》
《もしかして、昔の話だから誰も知らないのかしら?》
精霊たちにとって、ラーシャルード神が精霊王ルーアシェイアを生んだという話は常識で、覆しようのない事実のようだ。
やはりラーシャルード教は何かの理由があって、この事実を秘匿しているのだろう。
しかしティナにはラーシャルード教──この場合はアコンニエミ聖国だろう──の考えがわからない。どうして精霊を否定するのかも。
初めは強制で聖女になったものの、それでも神殿に世話になったことに変わりはない。信仰心が強くないティナでも神殿の人々には感謝している。