月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「ふぉっふぉっふぉ。本当は嬢ちゃんに渡そうと思っとったんじゃよ。じゃがうっかり忘れておってのう。坊ちゃんから嬢ちゃんに渡してくれんか」

 ノアは「うっかり」というが、それはきっと嘘なのだろう、とトールは思う。

 もしかするとノアはトールの来訪に気づいていて──ティナを追いかける口実を作ってくれたに違いない。

「──はい、必ずティナに渡します……!」

「うむうむ。頼んだぞい」



 トールはノアと別れると、馬に乗って精霊王の湖へと向かった。
 ルシオラの案内のもと、最短距離で馬を走らせているが、ノアの小屋から出発して既に三週間が経過していた。

 ──そうして、とうとう満月の日の当日。

 トールの目の前に、突然開けた空間が現れた。
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