月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

誕生


 満月の夜、月の光を浴びて本来の姿になった精霊たちが喜ぶ中、長らく眠りについていた精霊王ルーアシェイアがついに目覚め、ティナの前に姿を現した。

《私の力が弱まったのは、世界中にある精霊の住処が、いつからか荒れ果ててきたからなんだ》

 ルーアシェイア曰く、以前はこの湖のように聖気溢れる清浄な場所が世界中に幾つもあり、精霊たちもたくさん暮らしていたという。

「荒れ果てて……? それはどうしてですか?」

《瘴気だよ。聖気に溢れていた場所が、大量に発生した瘴気のせいで荒れてしまったんだ》

「瘴気が……」

 ティナはルーアシェイアの話を聞いて疑問に思う。普通、聖気が溢れていた場所に属性が全く正反対な瘴気が自然発生することはあり得ないのだ。

《私はすべての精霊と繋がっているからね。だから離れた場所にいる精霊が受けた瘴気の影響も受けてしまうんだ》

 ルーアシェイアが弱っていたのは、瘴気の影響を間接的に受けていたからだった。

「あの……っ、それは、こことは違う場所に弱っている精霊さんがたくさんいるってことですかっ?!」

 弱っている精霊たちを想像するだけで、ティナの胸がひどく痛む。この湖にいる精霊は今日、月の光を浴びてとても元気な姿を見せてくれた。
 だからすっかり安心していたのに、ティナが知らない場所で苦しんでいる精霊たちがいると思うと、居ても立っても居られない。
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