月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
月の光の下で
満月の光が降り注ぐ中、月下草を咲かすことに成功したティナの前に、彼女を追いかけて来たトールが現れた。
そうして、お互いの想いを伝え合って落ち着いてみると、ずっと二人を見守っていたルーアシェイアと精霊たちの視線に気がついた。
「うぁっ! ル、ルーアシェイア様……っ! す、すみません……! その……っ!」
ルーアシェイアたちの存在をすっかり忘れ、未だ抱き合ったままだったティナは、慌ててトールの腕から離れた。
《うむうむ……。人間の愛情とは素晴らしいな。久しぶりにイイものを見せて貰ったぞ》
「えぇっ! い、良いもの……っ!?」
ティナは恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまう。精霊と人間とでは感じ方に違いがあるだろうが、それでも恥ずかしいのだ。
そんなティナとは対照的に、トールはいつも通り平然としている。そしてルーアシェイアの前に出ると、深々と頭を下げて挨拶した。
「初めまして、精霊王ルーアシェイア様。俺はトールヴァルド・ビョルク・クロンクヴィストと申します」
《ああ、久しい気配を感じるな。……よく顔を見せてくれないか》
「はい」
トールの了承を得たルーアシェイアは、彼の顔を覗き込み、じっとその瞳を見つめている。