月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

宿

 冒険者となったティナとトールは、隣国クロンクヴィストへ向かうというモルガン一家の護衛を受け、王都を出発した。

 セーデルルンド王国では聖女の張った結界のおかげで魔物に襲われる心配はないが、国境を超えると結界の効力がなくなってしまう。
 しかも国境付近には森があり、魔物も出没するので、危険度が一気に増す。それでも定期的な魔物の駆除や街道の整備がされているので、商人や旅行者の利用は多い。

 隣国クロンクヴィストへは馬車で一ヶ月ほどかかる。
 ティナはその間に、出来るだけ愛らしいアネタの相手をしようと思い、めちゃくちゃ構い倒していた。
 アネタもティナにすっかり懐き、今では年の離れた姉妹のように仲良くなっている。

 そうして王都から出立してからしばらく、ティナたちは辺境の村で宿をとった。
 ここから先は村が無いため、しばらく野営となる。今日がこの国の宿で寝ることが出来る最後の日だ。

 ティナも聖女時代は浄化の巡業で野営を何度も経験したことはあったが、冒険者として経験するのは初めてだった。
 今までは馬車の中で聖騎士達に守られながら眠っていたが、これからは交代で火の番や寝床の確保、料理をしなければならないのだ。

「明日から野営かー。楽しみだなー」

 しかしティナは、冒険者として初めての野営を心待ちにしていた。それは昔、両親とともに旅をした、楽しかった記憶が心に残っているからかもしれない。
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