辣腕海運王は政略妻を容赦なく抱き愛でる【極上四天王シリーズ】
 重役フロアにもホテルと同様、モスグリーンの絨毯が敷かれている。ほかの階はリノリウムの床だ。

 シンと静まり返る中、おそるおそる廊下を進み、突きあたりで社長室のプレートがかかっているドアを発見した。

 ノックするとすぐに、秘書の満島さんが現れる。

「満島さん、おつかれさまです」

 わが家はホテルから車で二十分ほどのところの渋谷区にあり、父は運転手つきの社長専用車で通勤している。たまに満島さんが父を送り届けることもあり、私は小さい頃から顔を合わせている。おそらく今は四十代で、とてもまじめな男性だ。

「和泉さん、おつかれさまです。お待ちしていますよ」

 社長室は、満島さんのいる秘書の部屋の先にあるようだ。

 満島さんは体を横にずらして私を促す。

「あの、なにか聞いていますか?」

 呼ばれるのが初めてなので、嫌な予感しかない。

「いいえ。先ほどから上機嫌なので、そんな困惑した顔にならなくても大丈夫かと」

 上機嫌……。

 父は普段から気難しい性格で、自宅でも上機嫌なところを久しく見ていない。

 満島さんの言葉に背中を押され、コクッとうなずいてから社長室のドアをノックした。

「どうぞ」

 中から父の声がして、私はドアを開けた。

「失礼します」

 入室すると、父はプレジデントデスクから離れてこちらへ来るところだった。

< 3 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop