僕をスターにしてくれた君へ

「君、芸能界に興味ない?」

「ありません。」

「君は、必ず有名になれるはずだよ。君みたいな逸材は、他のどこを探してもいないの。私も含めあなたを必要としている人間が世界中に溢れる世界がやってくるの。どう?やってみない?」

8年前、バイト帰りの土砂降りの雨の中、彼女と出会った。

正直、スカウトされたのは、この日が初めてではなかった。

自分でいうのもなんだが、容姿端麗だった僕は、どこに出かけても良くスカウトをされていた。

ではなぜ僕が彼女からのスカウトを受けたか。

彼女に言われたあの言葉が決め手だったと思う。

あなたを必要とする人が溢れるという言葉。

あの頃の僕は、自分は、誰にも必要とされていない人間なんだと思っていた。

彼女は、僕がかけて欲しかった言葉をくれた人だった。

それが僕がこの芸能界という場所に足を踏み入れた理由だった。

あれから8年後、僕は、出たいドラマを自分で決めることができる程出演依頼が殺到する人気俳優となった。

「夢人、今度の出演ドラマなんだけど、この中のどれがいい?」

いつものように彼女がたくさんの脚本を並べ、僕に見せてくる。

「こんなのどう?主人公の片想いを描いた作品だってさ。」

彼女は、僕への嫌味かのようにその台本を勧めてきた。

「僕もこれがいいと思っていました。」

「あら?そう?なんで?」

「今の僕の状況と似てるので。」

「もしかして、片想いしてるの?」

「はい。ものすごく長い間。」

そう言うと、彼女は、驚いた顔をしていた。

「夢人ならモテそうなのにね。」

僕は、彼女に長い間片想いしている。

彼女にスカウトされたあの日からずっと彼女のことを想っている。

はじめの頃は、彼女も僕のことを好きだと思い込んでいた。

だっていつだって彼女は、僕のことを優先してくれたから。

「夢人、顔色悪いじゃない。どうしたの?何かあったならなんでも私に言ってね。」

僕が初めての授賞式の前日。

僕は、あまりの緊張で体調を崩してしまった。

でもそれを誰にも言うことができなかった。

迷惑をかけるのが嫌で。

他の誰も僕が体調が悪いことに気づいていなかったのに、彼女だけは、気付いてくれた。

「ゆりさん、どうして分かったんですか?」

「いつも夢人のことを見ているから分かるに決まってるじゃない。」

この言葉で彼女は、僕のことを愛してくれているのだと思った僕は、彼女に想いを伝えようと決心したのだった。

だが、そうは上手くいかないものだ。

「マネージャーは、担当するタレントのことを24時間見ているの。タレントが幸せでいることが私の幸せなの。だから夢人が苦しんでいるときは、私も苦しいのよ。だから早く元気になろう。」

そう。

彼女は、僕をタレントとして良くしてくれるだけだった。

それに気付いた時、

僕は、

生きていく原動力が湧いてこない程落ち込んだ。

でもその時誓ったんだ。

彼女が望む僕になろうと。

僕は、彼女が担当するタレントの中で最も売れっ子俳優になってやろうと。

あの時誓ったんだ。
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