ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「腹に傷があったら男に抱かれちゃいけないのか?あの義兄にでも刷り込まれたのか?」

 粧子は咄嗟に口をつぐんだ。泰虎は粧子を大事にしているようで、その実は籠の中に閉じ込め自由を奪うような真似ばかりしてきた。
 傷跡が残る身体を誰にも見せてはいけないと事あるごとに粧子に言い聞かせていたのは確かに泰虎だった。

「あっ……」

 はだけたバスローブからまろびでた豊かな胸を指で撫ぜられビクンと身体が跳ねる。ちゅうっと吸われたかと思えば、今度は舌で突かれた。

「あんなヘドロみたいな男の言うことを真に受けるな。他の男が入る隙なんて与えない」

 灯至を止める理由がなくなってしまった粧子は手で口元を必死になって押さえた。そうでもしないと、はしたない喘ぎ声を灯至に聞かれてしまう。
 同情心で中途半端に優しくされるくらいならいっそのこと思い切り冷たくして欲しいのに。灯至は丁寧に粧子の身体を解きほぐした。何をされているか訳もわからぬまま無我夢中で灯至に身を委ねる。

 この気持ちはなに……?

 冷たくして欲しいのに優しく触れられると身体が熱を帯びていく。初めての快感が背筋を駆け昇っていき弾けた瞬間、頭上に一羽の紋白蝶が見えた気がした。

 どこに……行くの……?

 ヒラリと舞い踊る紋白蝶の幻は、粧子が意識を手放すと同時に消えてなくなった。

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