ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「初めまして、果歩の夫の(すばる)です」
「昴くん、先に肩書きの説明をしましょうよ」
「だって、果歩の友人なんだろう?肩書きの説明なんて無粋じゃないか」
「いいから……!!」

 果歩のエスコートを担う男性は叱られたというのに何だか嬉しそうだった。果歩の夫は灯至とタイプは異なるが、誰もが振り返る美形だった。

「株式会社REALNavigatorの代表取締役の 廣永(ひろなが)昴です。こちらは秘書を務めております、廣永果歩。妻です」

 粧子は果歩の夫である昴の手ずから名刺をもらった。

「初めまして。槙島灯至の妻の粧子です」

 何度も繰り返したはずの挨拶なのに、自然と真心がこもる。果歩の夫は槙島の若奥様というよりは妻の友人として気さくに接しようとしてくれている。その心遣いが嬉しい。

「ジローさんもいらしてるんですか?」
 
 果歩がいるということはジローも来ているのかと、あちこち見回したがそれらしい人物は見当たらない。

「ジローはこういう場所には来ないよ。あいつは華やかな場所は大の苦手なんだ。俺達の結婚式ですら出席を渋ったくらいだからね」
「そうそう」
「あれでもうちの会社の執行役員なんだけどね。本当に困った奴だよ」

 昴はこの場にいないジローへの不満を漏らし、肩をすくめてみせた。
 サンドウィッチをむしゃむしゃ食べる姿からは想像ができないが、ジローはあれでそこそこの地位にいるらしい。気取らず、飾らないところが素朴な栞里とお似合いだとも思う。

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