LIBERTEーー君に
詩月は郁子の声を聞きながら自分が今、郁子に言ったことは間違っていないのか? と、戸惑った。

大丈夫か? 大事にしろよ、無理はするなよ、と言うべきではなかったのか?

「待っているから、追いかけてこい」は、また緒方を追いつめてしまうのではないか?

不安で仕方なかった。

「周桜くん、聞いている? わたし、あなたに感謝しているの。目標を示してくれて、落ちこんでいる暇がないの」

詩月は強がりで言っているのか、本心なのか、電話越しの声では、判断できないのが、口惜しかった。

ーー負担になっていないか?

詩月は堪らなくなり、訊ねた。

「どうして? あなたの演奏に元気をもらっているのよ。ケルントナー通りのヴァイオリンのデュエット、ブラームス尽くしの。周桜くんはブレないんだなって、ピアノもきっと頑張っているんんだろうなって」

ーー君は強いな、本当に強い
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