復讐計画、公開します。

悪魔のスカウト

 夕暮れの海は、思ったより人が多い。大学生らしきグループ、家族連れ、サーファー集団。独裁者ぶって叫んでる頭おかしい人。




 「今この瞬間を楽しんでます」って人たちの明るいオーラが漂ってて、近付けそうにない。

 


 人気のない防波堤の上に立つと、ごつごつした岩に波がぶつかってざぶんと音がした。ごちゃごちゃして重なった岩は、黒くさざめいて誘ってるみたいで。






 ここだけ避けたら痛み、感じないよね。






 そう思って半歩踏み出すと、落ち着いた声が「なぁ知ってる?」と割り込んできた。





 「屋上から地面に人が落下するまで、約2秒掛かるんだって」






 その声にゆっくり振り向くと、綺麗な顔した女の子……いや、男の子。






 制服から伸びたすらりと細い腕、華奢な体。柔らかな茶色の髪に、色素の薄い目を携えた男の子がじっとこちらを見ていた。







 「屋上ほど高くないし落ちる場所なんてコントロールできない。つまりお姉さんが思ってること実行したら、めちゃくちゃ痛い思いしてじろじろ見られて終わり。」






 公開処刑始めたいならどうぞ、と吐き捨てられると黙ってその場に腰を降ろす。






 ローファーを脱いで両足を垂らした私の横で、その子は外見に似合わず片膝を立てて座った。





 「それ、わざわざ脱ぐの面倒じゃない?」
 「えっと……」






 言おうかどうか少し迷ったけど、深く関わる気もないから口に出す。







 「…もう言いわけ思い付かなくて。買い換えるお金もないから、汚せないし無くせないの」
 「ふーん。で、逃げ場ないから死ぬと」
 「君むかつくけど頭いいね」




  精一杯の皮肉を込めたつもりだったのに「ありがとう」なんて軽くあしらわれると、諦めてぼんやり海の向こうを眺めた。






 「それならさ」





 少しの沈黙のあと、その子が口を開く。








 「俺の被写体になって欲しいんだけど」
 「…はい?」




 訳が分からない展開に抜けた声で聞き返す。その子は足をぶらぶらさせ海を見つめながら続けた。







 「俺、映画監督が夢なの。俺にしか作れない映画を撮りたい。そのためにはカメラも音響も照明も、なにもかも動かせないといけない。」
 「待って」
 「まだ今は練習積んでる途中だけどそろそろ腕試ししたいし。あんた可愛いから採用。主役で」
 「ちょっと待って君」





 「君じゃなくて理武(りむ)大戸 理武(おおと りむ)。17歳。」






 大戸くんは不服そうに言うと、気だるげにまた海へ視線を戻した。



 
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